結婚を誓い合った人同士に贈り合う結婚指輪。その歴史は想像以上に長く、使用されている宝石・ダイヤモンドのカッティング技術は、なんと紀元前にまで遡ることになります。
ダイヤモンドは現代だけでなく昔からその輝きで人を魅了しており、紀元前800年ころのインドではすでにダイヤモンドの文化がはじまっていました。そのころの技術は今のように「輝きを引き出す」ことではなく、「強度アップと輝きを楽しむ」という2点に焦点が当てられていました。
紀元前800年のインドで定番だったのは「カボション・カット」と呼ばれるもので、半球形にダイヤモンドを削ります。半球形なので光の反射や虹彩による輝きはありませんが、ダイヤモンド自体が持つツヤと色を最大限に楽しむことができました。
現在でもカボション・カットは不透明、半透明な宝石には多く使われるカット技術ですが、その原型が紀元前からあることには驚かされます。また、この時代から多くのカット・研磨技術は生まれており、なんとダイヤモンドを平面にしていたことがあったようです。
ダイヤモンドの価値は時代が進むと共に段々と高まり、14世紀末のヨーロッパでは貴族を中心に嗜好品としてもてはやされていきます。その中でダイヤモンドをより美しく見せるため、ダイヤモンドを研磨する職人も生まれました。
主にフランスのパリで研磨の技術が注目され、その中でさまざまなカット技術が生まれていきます。15世紀あたりには「テーブル・カット」と「ローゼンツ・カット」が誕生。この頃になるとダイヤモンドをカットするための機具などの開発も進み、さらに16世紀になると「ローズ・カット」も生まれてきます。
このカットは当時の照明器具であったろうそくに映えるように考えられたカットで、多くの貴族を魅了しました。
ますますダイヤモンドに求められる輝きは増し、17世紀には「マザラン・カット」が誕生しました。この技術はジュール・マザランによって生み出されましたが、実は現代でもメジャーな「ブリリアンカット」の原型とも言われています。このカット技術が生まれたことにより、ダイヤモンドの持つ光の屈折率にさらに注目が集まることになります。
この「マザラン・カット」を元に、ベネツィアの職人・ペルッツィが「オールド・マイン・カット」を誕生させました。この技術によって58もの研磨面を持つことに成功しましたが、さらに発展させた「オールド・ヨーロピアン・カット」が誕生します。
このカットは円形をしており、ダイヤモンドの美しさを決めるブライトネス・シンチレーション・ディスパージョンを引き出すことに成功し、このカットは結婚指輪でもメジャーなカットである「ラウンド・ブリリアント・カット」に近い技術と言われています。
さらに時代が進み、1919年になるとダイヤモンドを工学的特性に基づいて計算した「ブリリアント・カットのプロモーション」がマルセル・トルコフスキーにより発表されます。このマルセルが生み出したカット技術こそ「ラウンド・ブリリアント・カット」です。今でこそメジャーなカットとして知られる技術ですが、実はその魅力を引き出すためにさらに時間を掛けることになります。
この計算やプロモーションを元にカット技術の研磨はさらに過熱し、「エクセレント・カット」をはじめ「ペアシェープ・ブリリアント・カット」や「ハートシェイプ・ブリリアント・カット」が生まれました。
紀元前から現代まで脈々と受け継がれてきた、ダイヤモンドのカット技術。そのカット技術により石ころだったダイヤモンドが宝石としての価値を高め、その輝きは常に増しています。では、その技術の中で生まれたポピュラーなカットの種類を紹介していきます。
マルセル・トルコフスキーにより発表された、現代でもっともポピュラーなカット方法の1つで、正円に近い形で58面体にカットされているのが特徴です。ダイヤモンドの最高の輝きを引き出すためのカットと言われており、あらゆるデザインの指輪にもフィットするように計算されています。
正円にカットするラウンド・ブリリアント・カットに対し、ハート形にカットしてあるのがハートシェイプ・ブリリアント・カットです。女性の憧れを形にしたようなモデルで、ハートは幸福・愛の象徴として採用されています。
輝きとしてもラウンド・ブリリアント・カットに負けず劣らずで、欧米の若い女性を中心に人気のあるカット方法となっています。
ラウンド・ブリリアント・カットに並ぶほど人気が出てきているのが、プリンセス・カットです。「プリンセス」という名前の通り気品と上品さを備えた輝きを放つカット方法で、1980年代に生まれた比較的新しい技術でもあります。細かいきらめきが特徴となっており、ラウンド・ブリリアント・カットは違った輝きを楽しむことができます。
その形から「ペア(洋ナシ)」という名前が付いている「ペアシェイプ・カット」です。ペアシェイプはその丸みから女性らしい柔らかいイメージを連想させると共に、女神のしずくにも見えることから「ティアドロップ」とも呼ばれています。丸いダイヤに比べると細かい輝きを放ち、さらに指輪に着けると指を細く見せる効果もあります。
ダイヤモンドの輝きを引き立てるカット技術。カット技術は結婚指輪のイメージを左右しますが、それ以外にもセッティング方法によって印象が変わってきます。「セッティング」とはダイヤモンドを指輪に着ける際のスタイルを指し、大きく分けて2つに分けられます。
「爪あり」は結婚指輪としてはメジャーなセッティングです。指輪から伸びている4~6本のツメ部分にダイヤモンドを乗せることで、より光を集めやすい形状となっています。「爪あり」の仲間としては「カテドラルセッティング」もあり、こちらは両脇をスロープで支えるような形になっています。
高さがある上にツメの間からも光を集められるため、その輝きは他のスタイルに比べても多くなっています。しかし、高さがあるので洋服などに引っかかりやすく、日常生活では使いづらい側面もあります。
「爪あり」に対して「爪なし」は、指輪に直接宝石を埋め込んでいるタイプを言います。この「爪なし」には多くの種類があり、「伏せ込み」や「ペゼルセッティング」、「はさみ留め」があります。
「爪なし」は直接指輪に埋め込んでいるため、「爪あり」に比べると日常生活でも使いやすいのが大きな特徴です。さらに、「爪あり」に比べると現代的なデザインも多く、その種類の多さが人気を物語っています。しかし、「爪あり」に比べるとダイヤモンドの輝きは少し抑えられてしまいます。
指輪のセッティング方法には「レール留め」と呼ばれるものがあり、これは「エタニティリング」と呼ばれる指輪に多く用いられています。
もともと「エタニティリング」は、「メレダイヤ」と呼ばれる小粒のダイヤを指輪に一周する形で埋めているタイプを指します。このデザインから「永遠の愛」をイメージさせてくれることもあり、結婚記念日や子どもが生まれた記念日などに夫から妻へ贈られるジュエリーでした。
しかし、今ではその名前にちなんで結婚指輪・婚約指輪に採用する人も徐々に増えています。見た目としても爪ありに負けないデザインとなっており、検討の余地があるセッティングモデルです。
結婚指輪に付いてあるダイヤモンド。この宝石を生み出すために人類は紀元前から技術を磨き続け、現代までその輝きを増してきました。大事な人と年数を増すごとに輝きを増したいならば、ぜひカッティング・セッティングにこだわっていただければと思います。